脱 仕事人間
結婚する前の私は、仕事しか専念できるものがなかった。
仕事は楽しいし、仕事しかすることがないのだから、残業も苦じゃない。
そんな毎日だった。
帰る時間を伝えていても、その時間通りに帰宅できることはほとんどなかった。
彼はそんな私を時に叱りもした。
とは言いつつ、当時の彼も仕事柄、朝から晩まで長時間労働をこなしていた。
ずるずると仕事を続けてしまう、そんな私を理解はしてくれていたわけだ。
帰郷計画による地元での勤務開始により、私たちの働き方は一変した。
と、いうより日常生活における仕事の優先順位が変わった。
東京から離れたことで、なんだか時間の流れが緩やかになった。
すれ違う人もそんなに急いでいない。
同時に世間はコロナ禍となり、在宅勤務が日常となった。
こちらに帰ってきてからは通勤も加味して、ひとまず2Kの賃貸物件に入居していた。
よって、夫とはほぼ隣り合うように仕事をしていた。
違う会社で別の仕事をしているのに、同じ空間にいる。
とても面白い経験に思えた。
職場の人間とは直接会うことがなくなったが、夫と共にする昼休憩が良いリフレッシュになっていた。
お互いの仕事上の声は筒抜けなわけだが、それぞれに集中しているので思うほど支障はなかった。
家で仕事ができるようになると、物理的な「退社」はないので自主的な切り替えが要となる。
PCを閉じて、目の前のキッチンで食事の支度。
支度が面倒な時は外食。
寝るまでの時間は録画したお笑いを見たり、映画を観たり。ゲームをしたり。
閉鎖的なコロナ禍ではあったが、充実感ある私生活だった。
よく聞く話だが「残業をしない」「昼休憩はちゃんととる」と決めると、驚くほど仕事の質が上がった。
1分1秒が惜しくなるので、良い意味で自分がすべき仕事や作業を選べるようになる。
私生活が充実しているからか、仕事に対するモチベーションの波がなくなった。
それが業績にも現れるのか、安定した中堅社員になれた気がした。
結婚を機に、「仕事だけ人間」を脱せたようだ。