きもちの日記

日常綴る

結婚式キャンセル料に50万円ほど

 

浮き沈みがあってこそ、人生であろう。

ここまで自慢のようにつらつらと順風満帆な様子を描いてきた。

ここで一つ沈みを記す。

 

コロナ禍の結婚式ーーー

 

延期に延期を重ね、細心の注意を払って開催した人

やむを得ず規模を縮小して開催した人

いまか今かと時機を見計らっている人

 

 

そう珍しくない話だ。

私たちは、言うまでもなく結婚式を諦めた夫婦のひとりである。

 

 

地元県に戻ってきて住む家にも慣れてきた頃、結婚式を計画し始めた。

東京で籍も入れてきたわけなので、

「今更だけど、結婚式します」というような式の日取りだった。

 

いくつか見学しようとしていたが、最初に行った式場に決めた。

二人とも呼びたい友人のほとんどが県外からということもあり、駅に近いアクセスを重視した。

 

一歩足を踏み入れると、

街からそう離れてはいないのに、緑を感じられる。

仰々しさのない自然な雰囲気も気に入った。

 

思い立ったら即行動の二人。

今思うと、ここが災いしたのかもしれない。

見学したその日に、契約を交わした。

 

この日から数ヶ月経って、ダイヤモンド・プリンセス号のニュースがワイドショーを騒がせた。

 

自分とは関係のない話。

 

それが刻一刻と、自分たちの日常にも陰をもたらしていく。

 

 

マスクなしでは外に出られなくなり、仕事はリモートワークに移行した。

有名人の突然の訃報、親族でさえ会うことを躊躇する日々・・

 

 

結婚式といえば人生で最初で最後と言っていいほど、手放しに祝福を浴びる場。

こんな状況の中で挙げられるほど、能天気ではない。

 

県外から友人を呼ぶわけにもいかない。

高齢の親族をリスクに晒すわけにはいかない。

 

 

照らす太陽のもとビールが美味しい季節から、暖かく柔らかな陽気を感じられる春に延期を依頼した。

 

 

しかしながら、事態は私たちの準備する気力を蝕むように深刻になっていく一方だ。

私たちの住む県にも緊急事態宣言が発出された。

 

毎日コロナ感染者数を知らせるワイドショー。

山あり谷ありのグラフに一喜一憂する。

 

 

式の日取りは近づいてくるのに、楽しみよりも心配が上回る毎日。

それに嫌気がさし、ついに式のキャンセルを検討する。

 

 

あの時、意気揚々とサインした契約書を引っ張り出す。

「キャンセル料金」の欄を何度も何度も読み返す。

 

 

コロナは「天変事変」に値しない・・よな・・?

今回のキャンセルは「お客様のご都合によりキャンセルされる場合」になる・・よな・・・?

 

 

世の中が初めて経験するコロナ禍。

契約の文面には、今回のようなケースは想定されていないような書き方だった。

 

事態がいつ好転するか、悪化するか、

誰にも予想がつかない状況下。

 

もし、開催したとして自分たちの式でクラスターなんか起きたら・・・

 

 

いや、待てよ。

クラスターが起きると、必ずニュースで取り上げられている。

式場の名前が出たらマイナス広告になりうるはず。

そのようなリスクを式場側も抱えているわけだーーー

 

 

ちゃんと話せば

キャンセル料を全額請求されることは、ないのでは。

 

 

当初は、そんなポジティブな可能性を抱いていた。

 

 

が、式場の担当者と話をするにつれて、雲行きは怪しくなる。

キャンセル料は通常、式当日から何日前かによって支払うべき%が変わる。

もちろん、挙式日が近づくにつれて支払額、いわゆるペナルティーは高まるわけだが、この点が私たち夫婦側の論点だった。

 

 

当初の予定は7月挙式。

延期は翌年4月。

 

延期予定の月から換算すると、半年以上先のことだったのでキャンセル料は発生しない契約文面だった。

 

ところが、

式側の主張ではキャンセルの場合は当初の挙式予定月から換算する、と。

 

 

私たちはこの結論にどうしても納得がいかず、弁護士にも相談することにした。

相談料はもちろん発生するがこれも勉強のうちかな、というのが夫婦の考えだった。

 

 

 

担当弁護士は、私たちと同年代か少し上に見える若い男性だった。

日常ではあまり目にしなくなった、シャキッとしたスーツに弁護士バッチが光っていた。

 

 

初めて弁護士なるものと対峙をして、怯みそうになった。

 

ここで甘く見られてはいけない、

と敵ではないはずの相手に謎の闘志を燃やし、

論点と契約文面の矛盾、ネットで得られた情報などを一通り私から話した。

 

「許せないですね」

 

弁護士からの第一声に、ドラマで作り上げられたドライな印象が一変した。

勝ち筋はなくはないが、厳しい戦いになりそうだとのことだった。

ひとまず、彼に託しみようと依頼をした。

 

 

まあ、タイトルで結論は出ているので長々書くつもりはない。

結果としては、式場側の弁護士からの門前払いを受けたような形に終わった。

流石に裁判までいくのは、、と誰もがここで諦めるのだろう。

 

 

式場のキャンセル料ーーー

 

とあるネット住民から見れば、自己都合キャンセルなのだから上述のような話はただのクレーマーだと揶揄された。

とある式場関係者は、我々夫婦の歯痒い思いに共感しつつも、契約上、仕方のないことなのだと、諭された。

 

 

見栄を張れば、特にこれが家計に響いたわけでもない。

人生で1番と言っていいほどの晴れ舞台になるはずだった式を挙げることなく、散った50万。

 

 

素敵な旅行ができていたかもしれないし、

変わり映えのない生活費に淡々と消えていたかもしれない。

 

 

あれから、式場への恨み辛みも去った頃

子どもを授かった。

 

 

完全に時機を見失い、今更、呼ぶ予定だった人たちを集めるのもなんだか億劫だ。

私はもう、結婚式という形を経験することはないのだろう。

 

でもいつか、

子どもも一緒にドレスアップして何かしらをしよう。

 

抱いた無念を晴らせるように。